久江羽の読書?日記

長々放置しておりますが、時々腐的な何かを書くと思います

アナタの見ている向こう側 (ショコラノベルス)

アナタの見ている向こう側 (ショコラノベルス)

  • アナタの見ている向こう側

★★★★☆
大抵の火崎作品は購入しているのですが、どういうわけか積読率が高くって・・・すみません。今回はイラストに惹かれたのもあって、それなりに早めに読みました。やっぱり読みやすいし、やっぱりちょっと説教くさい(ほめ言葉です)ところが私好みでありました。他の作品も読まないとですよね。
お話の主人公は、三拍子も四拍子も揃った自信家のグラフィックデザイナー・宮本です。自ら外見がいいことを認め、頭が良くて何をやらせても上手くこなし、仕事をはじめとする自己責任上の事象にすべて自信がみなぎっているという、見方によっては大変俺様で嫌な奴になりそうなのですが、「周囲に気配り」もできるので人間関係は良好という、一度なってみたいような人物です。そんな彼が可愛がっている後輩・福原とよく行くカフェのシェフ・関東がもう一人の主人公。宮本は、いつも福原を陰から見ている関東のことが気になって気になって・・・理由をつけてはカフェに通う始末で、“後輩のため”に観察していたはずが、自分の方がどんどん関東の魅力に惹かれていくのです。自信家なものだから、常に上から目線で、自分がしていることには間違いがないと思っているので、「後輩のために」から「一途な関東のために」なにかしたくなった自分がいても、「自分の気持ち」にはなかなか気付かないわけです。そうこうしているうちに、関東と二人だけで会うことも多くなり、好きだとか愛して欲しいとかいう気持ちが高まれば高まるほど、自分に自信が持てなくなり、今まで築き上げた宮本の自己中心的なアイデンティティーが崩壊し始めます。そこらへんからお話は思春期キュンキュンモードに突入です。あれこれ気が回る分取り越し苦労もハンパ無く、他人のことばかり考えているから一番分からなくなっているのが自分のことで・・・最後のほうで関東が言った「生意気なクセに妙に遠慮深くて、横柄なクセに妙に優しいお前に興味を持った。」という言葉が、宮本のことを端的に表わしていると思いました。実際、そんな宮本だから、鼻持ちならない言動を繰り返していても全然嫌な奴ではないわけです。だから読んでいて気持ちいいのです。ある意味先が読めるお話でもありますが、頭がいいくせに自分の気持ちに振り回される宮本が可愛いので、お約束な展開も気になりません。最後の関東の言葉「口数が多い。お前は黙って愛されてろ」!!!そんな二人の関係が微笑ましいのでありました。

恋で花実は咲くのです (ディアプラス文庫)

恋で花実は咲くのです (ディアプラス文庫)

  • 恋で花実は咲くのです

★★★★☆
芸人シリーズです。と言いながら、今回は、3年前に漫才をやめて郷里で温泉旅館の仕事をしている芝山と彼の元マネージャー・時田のお話です。
【恋で花実は咲くのです】
いつかきっと芝山をお笑いの世界に呼び戻すと言っていた時田が、新しい劇場の支配人になったのをきっかけに芝山を迎えに来たのです。劇場付の作家として戻ってきて欲しいと・・・漫才は好きだったけれど大して売れず、実家の旅館は経営難で、互いに惹かれあっていたのに思いを伝えることもせず、潔く引退し時田とも別れ旅館と温泉街の復興に力を入れていた芝山なので、はじめは断ったのですが、時田の押しが強く・・・地元の幼馴染みの男たちや、芝山の姉家族達を巻き込んで、地元に残るか大阪に行くかを悩む数日のお話が描かれています。結局芝山は大阪に戻る決心をするのですが、その気持ちがほころんでくるきっかけが“足湯”です。そのシチュエーションが非常によろしい。裸で露天風呂に入っているよりはるかに、静かなエロスを感じました。ただし、本文にもあるように、仕事の面では大変できる男・時田なのですが、恋愛面では天然+ヘタレでして、カッコいいと思ったら今度はグダグダになるというオイシイ面を持っているので、お話そのものはコメディの枠にくくれるかと思います。特に、最後の最後で、いい男がそんなことしちゃいけませんって言いたくなることをしてくれています。そこが可愛い時田さんです。ちなみに、濃厚なキスはありますが、このお話ではそれ止まりです。
【笑って花実は咲くのです】
芝山が大阪へ戻ってからのお話です。元漫才師ではあるものの、現在は作家としてネタを提供する側になった芝山は、同期や後輩、新人などの漫才師とどのように接していくべきか悩みます。時田のやりかたにも同調できなかったりして、自分の立ち位置が決められません。↑の本編以上にシリアスな展開になっています。恋愛面でも、二人の思いは確認したもののたいした進展が無く、仕事でギクシャクしているものだから、私生活もギクシャクしてしまって・・・
あれこれあって結局上手くまとまるのですが、↑以上に仕事におけるシリアスな面と、恋愛におけるコメディな面がいい感じに緩急ついていて面白かったです。って、恋愛モードの時田さんがあまりに情けな可愛いので、そこで他の場面をみんな食っちゃっている気もしますが。
【愛で花実が咲きました】
時田さん恋愛モード満載の書き下ろしです。劇場の1周年記念ライブの打ち上げで、過去の芸人シリーズの面々も登場します。時田さんは芝山を取り囲む彼らに嫉妬しちゃって・・・時田さんは結構獣、芝山は意外と甘えたさんだったというお話。よかったよかった。