久江羽の読書?日記

長々放置しておりますが、時々腐的な何かを書くと思います

あめの帰るところ (ダリア文庫)

あめの帰るところ (ダリア文庫)

  • あめの帰るところ

★★★★☆
風変わりな予備校講師・能登とその教え子の高校生・千歳のお話です。能登は頭はいいけれどいまひとつ社会適応性に欠ける大人で、千歳の方はごく一般的な高校生とは言えないくらい純粋無垢でいい子です。いつになく自分とコミュニケーションが成り立つ千歳のことが好きになってしまった能登は、いかに自分が千歳を必要としているか、どれだけ愛しているか、などを独特な口調で事あるごとに訴えます。千歳のほうも戸惑いつつほだされていくのですが、「好きです」「僕もです」とすぐに展開してしまうのではなく、少しずつじっくりと話し合って納得して、一歩一歩すすんでいくわけです。あまりに慎重な能登に千歳のほうが焦れてしまうくらいに・・・ここまでが副題「先生へ」のお話です。
ただし、そこでお話は終わりません。「あめ」が帰るところはどこなのか?というのが本題な訳なので、「あめちゃん」=千歳に事件が起こります。あれだけのんびりしていた能登が、「あめちゃん」を取り戻すために自主的に動き出すのですが、能登のあめちゃんではなくなってしまった「ちいさん」には、彼女がいて・・・
幸せだった二人を襲った“記憶喪失事件”で、能登は「あめちゃん」をあきらめるため「ちいさん」を突き放し、千歳は能登に感じる慕わしい気持ちを恋と気付かないまま追いかけるのです。二人の気持ちがすれ違っているわけではないのに、同じ方向を向いているわけでもないもどかしさで泣かされた部分もちらほら。
お話のほとんどがこの二人だけで展開するのですが、重要な役どころを担っているのは女性陣です。不思議な性格で変わった行動ばかりするわりに、女性にモテる能登は、彼を好きだった同僚や教え子のフォローのおかげで千歳との新しい関係を築けるようになったのですから。
というわけで、アマアマなバカップルのお話が、キュンッと酸味の利いた展開になりました。彼らの会話がですます調で、それなりに違和感があるのですが、読み終えてみればそれはそれでアリだったのかなとも思います。かれらの普通じゃない部分が際立ちましたからね。