久江羽の読書?日記

長々放置しておりますが、時々腐的な何かを書くと思います

月に笑う〈上〉 (ビーボーイノベルズ)

月に笑う〈上〉 (ビーボーイノベルズ)

  • 月に笑う 上

★★★★☆
ヤクザの世界にしか居場所が無いと言い切る信二は、暴力もゆすりたかりも平気でできる決していい人間ではないのですが、基本が優しいというか義理と人情を重んじているような昔気質な部分があります。また、裕福な家庭に育ち学力は問題ないものの、心を通わせる友人や家族がいない路彦はいじめられながらもそこに居場所を見出そうとしている寂しい中学生でした。ある日恥ずかしい格好にされいじめられていた路彦を、信二が助けたような状況になり、信二をただひたすら慕う路彦が誕生するのですが、始めのうちはなぜ路彦がこんなにも信二を慕うのかわからないままお話を読み進めておりました。しかし、たとえば家族や親友に毎日の楽しい話を聞かせ、悩み事を相談し、時には親に内緒の下世話な話もできるのが普通としたら、路彦はその普通の部分を持っていなかったわけで、初めて信二と出会った時にはすでに恥ずかしい自分をさらしていたということは、始めっから信二とは裏事情まで知っている仲になっていたのだから、14歳といってもまだまだ幼い思考の持ち主の路彦が、彼を慕ってしまうのも仕方が無いなと・・・
チンピラとの付き合いですから、好ましいことなどほとんど無く、犯罪すれすれのようなこともしないわけではないですが、お互いが本当にハマってはいけないことに関しては相手を守ろうと必死になるのです。信二は、いつヤクザな世界に飛び込んでしまってもおかしくないくらい不安定な路彦を、ひたすら「カタギ」として扱おうとし、路彦はヤクザな信二は認めても、犯罪に手を染めることは許せなくて・・・
うまい具合に大人しい女子中学生とヤクザの関係した覚せい剤事件を絡め、信二は瀕死の重傷を負うのですが、そこに居合わせ警察の事情聴取を受けた時の路彦の言動に、彼の今まで抱えてきた理不尽な思いが詰まっているなぁと思いました。
高校生になっても大学生になっても、ただひたすら信二を慕う路彦。信二の方は組が解散したり別の組に移ったりと状況が大きく変わります。自分の気持ちにはっきりとした理由がつけられないけれど、ひたむきに関係を続けようとする路彦を受け入れ、時には頼りにしている信二と、人間的にも体格的にもどんどん成長していく路彦の立場がなんとなく逆転しだします。
いじめやヤクザの世界など、暗くて痛い始まりでしたが、路彦が成長するにつれ、どこかニヤリとしてしまうような、曖昧な感じの優しさのあるお話になりました。

月に笑う〈下〉 (ビーボーイノベルズ)

月に笑う〈下〉 (ビーボーイノベルズ)

  • 月に笑う 下

★★★★☆
信二が東京の組に移り、組長の息子・惣一の下につくことになってからのお話です。「上」ではテキヤがメインのヤクザでしたが、こちらは違法な株のやり取りで稼いでいるヤクザ。大学で経済を学んでいる路彦も組の仕事に関わっていると知った信二は・・・
さらに舎弟・良太の不手際で、窮地に追い込まれてしまった信二は、惣一が放ったヤクザに追われる身になります。好きだという告白とともに路彦に助けを求める信二。手に汗握る逃避行の末、今度は路彦が瀕死の重傷を負い、信二は服役して離れ離れに・・・
変わらず根底に流れているのは、路彦にカタギでいてほしい信二の思いと、信二に犯罪を犯させたくない路彦の思いです。お互いを想い必要とする二人が、紆余曲折を経て一番いい状況でハッピーエンドになってくれてホッとしました。
それにしても、チ○コ連発の信二なうえ遠慮なくそれに乗っかる路彦なので、これだけハードでディープな内容なのに、やっぱりニヤッとしてしまうおかしさがあちこちにちりばめられて、なかなか楽しい作品でした。できれば、題名にもある笑う龍の刺青をさらに印象深くするシーンがあったらよかったと思いました。
脇役に、いい男だけど変態な惣一やオタクの君嶋という個性的なキャラも登場しましたが、この作品は主人公の存在が大きくて、脇に入れ込まないまま素直に読み進みました。舎弟の良太とその彼女美鈴がハッピーエンドになったことは予想外でしたが、嬉しかったです。

盗っ人と恋の花道 (キャラ文庫)

盗っ人と恋の花道 (キャラ文庫)

  • 盗っ人と恋の花道

★★★★☆
江戸時代、ワケアリの豪商・深川屋新左衛門と盗賊に育てられた美少年・環のお話。ああ、時代ものは大好きだぁ。
自らの身体を使ってお大尽を手玉に取り、強盗先の情報を入手するよう育てられた環は、まんまと深川屋に預かられることになります。自分の役目を果たさなくてはならないのはわかりながら、新左衛門を心から愛してしまう環。その環の選択は・・・
また、新左衛門の方にもなかなか辛い過去があり、それは今の生き方にまで影響していて・・・
武士と町人と、運命に弄ばれるしかない存在と、題名は軽い響きがありますが、内容は意外とシリアスなのです。教えられたとおりに新左衛門を篭絡しようとする環は、閨房事は巧みなものの心根は純粋無垢で、ただひたすら健気です。そして新左衛門は頼りがいのある男前で環を大変可愛がるので、妄想の世界は絢爛豪華な状態です。そこへ、キーワードでもある金魚が絡み、盗賊と火盗改、仇討ちまでもが加わると、豪華な大江戸捕物帖となるわけです。
何かにつけ女性的な環ですが、そういう風に育っちゃったのだから仕方が無いでしょう。
「金魚よりも鯉になって、いっそ新様に食べられたい・・・」大川に身投げする直前に環が言った言葉です。こういうの、時代劇だからこそですよね。好きだー。